スマートフォンUXの最前線というイベントで、HMDTの木下誠さんのセミナーを聞いてきました。
タイトルは「iOSデバイスの進化に伴うアプリ開発とデザインの変遷」
- iOSアプリのインターフェース
- 受託開発というスタイル
- 技術者として、経営者として
HMDT社では、iPhone SDKが公開されてから、この3年で60個以上のアプリを出しているそうです。 iPhoneSDKの公開で会社のすべてが変わった、とのこと。
駅探エクスプレス
最初は駅探エクスプレス。 このアプリはiPhone3GのCMにもとりあげられたそうです。
ミニマムなユーザーインターフェースをこころがけ、不必要なアイテムを可能な限り省いたそうです。
特にキーボードレス入力に注力したそうです。(駅探エクスプレスでは、UITableViewのインデックスを利用して一文字づつ選択し、キーボードなしで駅名が入力できます。) 歩きながら使うアプリなので、できるだけキーボードを使わせずに入力させるようにした。 また、昔はiOSの日本語キーボードの処理が重く、できるだけつかわせないようにした、とのことでした。
付加的情報の見せ方も工夫した。 iPhoneを横向きにすると検索した経路の路線情報を見ることができる。これは必ずしも検索結果として必須な情報ではないため、メインの画面には表示せずオプション的な操作で表示する情報にしている。
ユーザーインターフェースの錬成
このアプリは2007/10/31にはじめの画面スケッチができて、2007/11/9にはほぼ完成した、ということで、その時の画面スケッチを見せてもらいました。最初のスケッチに比べ、最後でのスケッチではボタンがぐっと減っていました。 また、最初のスケッチは画面下部分がツールバーだったけど、完成したときにはタブバーになっていたり、いろいろと変遷があったようです。 この一週間強の間に、メンタルモデルの確率と技術的課題の確認と解決を行っていたそうです。
木下さんは、こちらをモットーにしているとか。
技術者はNOというな by 岩田聡
駅探の検索結果画面では、ユーザーのジェスチャーに対して下記の動作で対応しているそうです。
- 横フリックで平行世界の移動
- 縦フリックで時間軸の移動
「横が空間、縦が時間」というメンタルモデルをユーザーの心のなかに作り上げている。
iMandalArt
次はiMandalArt。 これは思考方法を実現するシステムなんですが、考え方自体は古く、HyperCard版やwindows版、Palm版もあったそうです。 (ここで「Palmってみんな知ってるのかな?」との木下さんの発言に、会場の反応温度が低い……。やっぱ今時の若い人はPalmもHyperCardも知らないんですよね、きっと……。) これも、画面キャプチャーを見たではわからないけど、セルを押したときのアニメーションがとても効果的。是非実物を見て確認してほしいところです。
木下さんのがUXデザインをする上でこころがけていることは、こちら。
- アピアランス
- レイアウト
- ビヘイヴィア
このうち、3点目のビヘイヴィアが一番重要である。 上の二つは紙などのほかの媒体においても存在するけれども、ビヘイヴィアはアプリ特有のもの。これをどう実装するかでユーザー経験が大きく異なってくる。
また、ビヘイヴィアを使ってユーザーをガイドすることも重要。 マニュアルやヘルプがなくても次に何をすればよいかがわかるようにしましょう、と。
受託開発について
受託には「単なる金儲け」などの悪いイメージもあるが、自分は「プロ同士のコラボレーション」だと思っている、と。
来たボールはとにかくうちかえす by 糸井重里
相手の要求を分析したところで、「プロトタイプで提案したい」と実装を主導権をとる、と。 この段階で自分たちのやりたいことをこっそり忍ばせる。
ただ、プロジェクトはうまくいくこともあるし、いかないこともある。
木下サンは、「もの作りに民主主義はいらん!」のモットーのもと、「皇帝モデル」をとっている、と。 「皇帝モデル」とは、プロジェクトのゴールが見えている人に全権を与えて、その人に従うこと。 そもそも誰が決定権を持っているかわからないプロジェクトはうまくいかない。
MoneyTron
MoneyTron。とてもデザイン性が高いお小遣い帳アプリです。 デザイン会社Webtronからもちこまれた企画だったので、まずデザインありきのプロジェクトだったそうです。
金額を入力するときのカテゴリー選択がダイアル式となっていて、くるくるまわしながら直感的にカテゴリーの選択ができます。
アプリには、「チャンピオンスクリーン」が重要、とのことでした。 「チャンピオンスクリーン」とは、アプリを決定づける画面。 これがはっきりしているとアプリとしてとても強くなる。
iOSでは基本的なUI部品はOSの標準部品としてそろっているが、このアプリはデザイン性を重視するため、フルカスタマイズとし、ほぼすべてのUI部品を作り直した。 (そのため部品数がすごいことになったそうです。)
強制は常に正しい。 by 坂本龍一
強い思いを持ってやっている人がいたらそれにこたえることが重要、だそうです。
人を育てる
自分はふつうのエンジニアの20人分くらい働けるけど、やはり「20人分」という限界はある。 人の育て方としては、「俺になれ」がモットー。 そのためにこの本をかいた、とのことでした。

- 作者: 木下誠
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
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最近iOS未経験者4名を採用したけど、簡単な研修の後にこの本を読んでもらって自習してもらったところ、すぐ実戦投入をしても全く問題なかったそうです。
今回は、実際のアプリ画面を見ながらのセミナーということで、いろいろと勉強になりました。 HMDTさんのは受託開発が中心のため、どのアプリを担当されているかがなかなかわからないんですけれど、今後もセミナーなどで紹介していただけたらなと思います。